では、なぜクレオパトラ7世は「世界を破滅に導いた魔性の美女」として後世に定着したのでしょうか。その発端は、アントニウスを破ってローマの初代皇帝となったオクタウィアヌス(アウグストゥス)の高度な政治プロパガンダにあります。
オクタウィアヌスにとって、ローマ人同士の血みどろの内戦を正当化するためには、戦争の相手を「高潔なローマの将軍アントニウスを妖術で惑わした、東方の邪悪な女王」に仕立て上げる必要がありました。異国の妖艶な美女に狂わされたローマの英雄を救い出すという構図を作ることで、ローマ市民の支持を一身に集めたのです。
このプロパガンダは、後にシェイクスピアの戯曲『アントニーとクレオパトラ』や20世紀のハリウッド大作映画によって劇的に増幅され、世界中で「絶世の美女クレオパトラ」の神話が完成することになりました。