計算問題で多くの人が足をすくわれるポイントが、「移動距離」と「変位」の混同だ。
400メートルトラックを全力で1周して元のスタートラインに戻ってきたランナーを思い浮かべてほしい。走破にかかった時間を50秒とする。
「速さ」を求める公式は【移動距離 ÷ 時間】だ。400mを50秒で割れば、平均の速さは秒速8メートル。誰もが納得する直感的な計算結果だ。
だが、「速度」を求める公式は【変位 ÷ 時間】となる。ここで登場する「変位」とは、移動経路に関わらず『最初の位置から最終的にどこへどれだけズレたか』という位置の変化を指す。トラックを1周して元の位置に戻った場合、位置のズレ——つまり変位はゼロだ。結果として、ランナーの平均の「速度」は秒速0メートルという、一見すると奇妙な解が導き出される。
汗だくでトラックを疾走した運動が、速度という尺度では「ゼロ」と評価される。この直感と数学的定義のギャップを飲み込めるかどうかが、物理嫌いになるかどうかの分かれ道だ。