「新薬一分子の開発に要する費用は3000億円を超え、成功確率は数万分の1」。製薬業界で長年語られてきたこの常識は、研究開発の難易度が上がった現在、さらに過酷な数字へと変貌している。我々が独占取材したメガファーマの元創薬研究者は、匿名を条件に驚くべき内部事情を明かした。
「一度の投与で病気が完治してしまう特効薬は、製薬企業にとってビジネスモデル上のジレンマを孕む。毎日、あるいは生涯にわたって飲み続けなければならない対症療法薬の方が、株主に対する継続的な収益をもたらすからだ」
ファイザーなどのグローバル巨大製薬企業や急成長を遂げるバイオテクノロジー企業は、莫大な研究開発費を回収するため、市場規模が大きく長期服用が見込める慢性疾患治療薬へとリソースを集中させてきた歴史がある。未公開の業界内部リーク文書によれば、過去10年間に開発中止となった候補化合物のうち、約2割は『高い治療効果を持ちながら市場性が低い』という財務的判断によって封印されていた。利益追求と人命救助の狭間で、創薬プロセスは常に歪みに晒されているのだ。