商業主義の波が押し寄せる出版界において、やなせたかしは徹底して「弱者のための表現」にこだわり続けた。サンリオが発行していた伝説的雑誌『詩とメルヘン』の初代編集長として、無名の人々の声なき声、ささやかな詩情を掬い上げ、世に送り出し続けた功績は計り知れない。
そして、彼の代表作となる絵本を世に出したのが児童書出版の老舗・フレーベル館だった。最初に出版された『あんぱんまん』は、自分の頭を食べさせるという異様な設定から、当時の教育者や批評家たちに「グロテスクだ」「子どもに悪影響を与える」と痛烈な批判を浴びた。だが、大人たちの拒絶をよそに、幼い子どもたちは本能的にその無償の愛を受け入れた。大人の論理に屈せず、日本の児童文学に新たな地平を切り拓いた彼の不屈の闘志が、そこには刻まれている。