この事件が社会に与えた最大の激震は、築年数の経った単身者向け物件が抱える物理的な防御力の弱さだった。オートロックが付いていない、外階段から廊下が丸見えである、あるいは隣接する建物との距離が近くベランダへ容易に移れるといった構造問題。これらは都心部の格安賃貸物件において極めて一般的な特徴である。
経済的に余裕のない若者や学生がそうした物件を選ばざるを得ない社会構造も浮き彫りとなった。家賃の安さと引き換えに防犯性を犠牲にするリスク。事件後、不動産業界や賃貸オーナーの間では防犯カメラの追設や二重ロックの推奨が進んだが、建物自体の構造的欠陥を完全に埋めることは容易ではない。住まいというプライベート空間の安全をどう担保するのかという問いは、いまも解決しきれていない課題として横たわっている。