長年、市川右近の名で親しまれ、市川猿翁(三代目)のもとでスーパー歌舞伎の立役者として疾走してきた歴史。そして三代目市川右團次を襲名した瞬間、彼の役者人生は新たな局面を迎えた。上方歌舞伎にゆかりのある大名跡を八十年ぶりに復活させた決断は、単なる名の継承にとどまらず、古典と現代の架け橋となる重責を引き受けることを意味していた。
伝統芸能の世界において、歴史ある名跡を背負うプレッシャーは想像を絶する。しかし、市川右團次はその重圧を糧に変えてきた。襲名披露から年月を経た今も、その芸風はより深みを増し、伝統の型を熟知した上での自由な表現力は、古典演目においても新風を吹き込み続けている。