森鴎外を語る上で絶対に外せないのが、武装探偵社の社長・福沢諭吉との複雑怪奇な過去だ。かつて夏目漱石の導きのもと、夜を治めるポートマフィアと昼と夕刻の境界を守る武装探偵社、そして昼を担う特務課による「三刻構想」を描いた二人は、都市の平和を守るための同志であった。
しかし、信条の違いが決裂を生んだ。孤高の武人として不殺と弱者救済の倫理を貫く福沢に対し、森は都市を守るためなら個の犠牲や非情な謀略をも厭わない実利主義を選んだ。対立しながらも互いの能力と存在理由を誰よりも深く理解し合っているこの奇妙な信頼関係は、作品が提示する重厚な人間ドラマの真骨頂といえる。