名曲『男の背中』の誕生を語る上で欠かせないのが、昭和歌謡界の巨匠・中山大三郎の存在だ。作詞・作曲を手掛けた中山は、増位山の持つ「男の哀愁」と「包容力」を極限まで引き出すため、一切の無駄を削ぎ落とした旋律と情景描写を紡ぎ出した。レコーディングスタジオでは、過度な感情移入を排し、あえて淡々と歌うことで言葉の奥にある重量感を際立たせるという、緻密なボーカルディレクションが行われたと伝えられている。
決して多くを語らず、弱音を吐かず、ただ黙して生きていく男の生き様。中山大三郎が描いたのは、ヒーローの華々しい姿ではなく、人生の重荷を一人で背負い込む哀しき背中だった。その世界観が増位山の低く甘い声と見事に共鳴し、聴く者の魂を揺さぶる傑作が完成したのである。