「親の介護を拒否したら法的に罰せられるのではないか」という不安を抱える人は少なくありません。しかし、法的な線引きを正しく把握している人は驚くほど少数です。日本の法律における親の介護の扶養義務はどこまで及ぶのか、その境界線を明確にしておく必要があります。
民法第877条第1項には「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と規定されています。しかし、この扶養義務には2つのレベルが存在します。未成年の子どもに対する親の義務のような「自分と同じ水準の生活を保障する義務(生活保持義務)」と、親に対する子どもの義務である「自分の社会的地位や生活を損なわない余力の範囲で助ける義務(生活扶助義務)」です。つまり、子ども自身の生活費や子育て費用、老後資金を削ってまで親に仕送りしたり、仕事を辞めて介護に専念したりする法的義務は一切ありません。
一方で注意しなければならないのが、介護放棄による法律上の罰則です。刑法第218条の「保護責任者遺棄罪(3か月以上5年以下の拘禁刑)」や、それにより死亡させた場合の「保護責任者遺棄致死罪(3年以上20年以下の拘禁刑)」に問われるケースは、同居していて食事や医療の提供を怠り放置した場合や、実質的な保護関係下にある親の生命の危機を認識しながら通報しなかった場合です。別居している子どもが「自力では直接介護できないため、行政窓口や公的サービスに引き継ぐ」という行動を取る限り、遺棄罪に問われることは法的にあり得ません。