国民的アニメの看板キャラクターに激震が走ったのは、2016年8月3日のことでした。所属事務所のAIR AGENCYおよびテレビ朝日より、藤原啓治さんが病気療養のため『クレヨンしんちゃん』の野原ひろし役を休養することが公式に発表されたのです。当時、藤原さんは51歳。アニメ界の第一線を走り続ける実力派の突然の休養宣言に、アニメファンのみならず一般の視聴者層の間にも大きな動揺が走りました。
当時制作現場を支えていた関係者の証言や当時の報道資料によると、藤原さんは体調の異変を感じながらもギリギリまでマイクの前に立ち続け、作品のクオリティを保つために全力を尽くしていました。テレビシリーズにおける藤原啓治さんの最後のレギュラー出演回となったのは、2016年8月12日放送の第906話「だちょうとたわむれるゾ」「カキ氷がキーンだゾ」です(配信限定作品としては、同年8月スタートのAmazonプライム・ビデオ『クレヨンしんちゃん外伝 エイリアン vs. しんのすけ』第1話が最後の収録となりました)。普段と何一つ変わらない、飄々としながらも温かい「いつものとーちゃん」の演技を残し、藤原さんは静かに療養生活へと入りました。
そして急遽、代役として白羽の矢が立ったのが、洋画吹き替えや多くのアニメで藤原さんと共演を重ねてきた森川智之さんでした。2016年8月26日放送分から急遽ひろし役を引き継いだ森川さんは、当初「代役」という形でマイク前に立ちました。誰もが藤原さんの病気快癒と早期復帰を信じて疑わなかった時期です。しかし、藤原さんの闘病生活は予想以上に過酷を極め、2020年4月12日、がんのため55歳という若さで帰らぬ人となりました。この訃報を受け、森川さんは正式に二代目・野原ひろしとしてその意志を継承することを決意することになります。