ネット上の掲示板やSNSでは、有力チームが敗退した際に「練習不足ではないか」「監督の区間配置ミスだ」といった単純化された批判が散見されます。しかし、現場の取材データを検証すると、そうした俗説とは全く異なる実態が浮かび上がってきます。
第1の盲点は、実業団陸上部の多層的なピーキング問題です。実業団チームにとって元旦のニューイヤー駅伝が最大の目標であることは間違いありませんが、選手個人のキャリアとしては、秋のトラック記録会、日本選手権、さらにはマラソン日本代表選考(MGCなど)とのスケジュール調整という複雑な連立方程式を解かなければなりません。予選会に100%のピークを合わせる調整を行えば本戦での伸び代を欠き、逆に本戦を見据えた高負荷トレーニングの途中で予選に臨めば足元をすくわれるという、極めてハイリスクな舵取りを強いられているのです。
第2の盲点は、企業の雇用環境とリハビリ体制の格差です。メガ企業が運営するチームでは専属のトレーナー、栄養士、データアナリストが帯同し、故障の予兆をミリ単位のバイオメカニクスデータで察知します。一方、限られた予算で運営する地方実業団では、主力が1人でも軽度の故障を抱えた場合、代替選手の選択肢が極端に狭まります。「なぜあの選手を使わなかったのか」というファンの疑問の裏には、表沙汰にできない直前の肉離れや疲労骨折のリスク回避という、現場の苦渋の決断が存在しています。