「過剰に舐めすぎる」ことと同じくらい、あるいはそれ以上に命の危機を暗示するのが「毛繕いをピタリとやめてしまう」現象です。猫がセルフグルーミングを怠ると、被毛は油分でベタつき、毛束が固まり、フケが目立つようになります。これは猫にとって身だしなみを整える気力や体力が完全に奪われている動かぬ証拠です。
原因として最も頻繁に見られるのが、高齢猫に多発する「変形性関節症」です。体をねじったり後肢を上げたりする姿勢自体が激痛を伴うため、毛繕いをしたくても物理的に届かなくなります。また、口腔内の激しい痛み(重度の口内炎、破歯細胞性吸収病巣、歯周病)があると、舌を動かすこと自体を避けるようになります。さらに、慢性腎臓病の進行による脱水や尿毒症、肝疾患、悪性腫瘍による全身の倦怠感も、グルーミングの停止という形で真っ先に表面化します。
一方で、毛繕いを熱心に行う猫であっても避けて通れないのが「毛球症(もうきゅうしょう)」の脅威です。春や秋の換毛期には、抜け落ちたアンダーコート(下毛)を大量に飲み込んでしまいます。通常は便と一緒に排泄されるか、定期的な吐き戻しによって胃から排出されますが、胃内で毛が巨大なフェルト状の塊を形成すると、幽門部を塞いだり腸閉塞を引き起こしたりして開腹手術に至るケースが少なくありません。
毛球症の予防策としては、毛を体内に取り込ませないための日々のブラッシングが最重要です。換毛期には1日最低1〜2回、アンダーコートを適切に除去できるスリッカーブラシや獣毛ブラシを使い分けます。また、消化管の運動を促す水溶性・不溶性の食物繊維をバランスよく含んだ毛玉ケア専用フードの導入や、水分摂取量を増やす工夫(循環式給水器の設置やウェットフードの併用)が極めて有効な防護壁となります。