「腹パン」とは、文字通り「腹部へのパンチ(ボディブロー)」を省略した言葉です。もともとは格闘技の現場や不良カルチャーの間で用いられていた俗称でしたが、2000年代以降のインターネットコミュニティ、特に匿名掲示板や同人カルチャー、サブカルチャー表現の中で急激に再定義されていきました。
Webメディアやソーシャルリスニングツールの分析データによると、この言葉がネットミームとして広く浸透した背景には、二次元創作における「特定のお約束(クリシェ)」の記号化があります。特に2010年代半ばから2020年代にかけて隆盛を極めた「生意気な年下キャラクター(いわゆるメスガキ属性)」に対して、精神的・肉体的な優位性を取り戻すためのコミカルな制裁描写として定型化された側面が強いと指摘されています。
漫画やアニメの演出において、顔面への打撃はキャラクターの容姿を著しく損ない、過剰な生々しさを生んでしまいます。その点、衣服で隠れる腹部への一撃は「外見を傷つけずに強烈なショックと沈黙を与える都合の良い演出」として重宝されてきました。この視覚的・文脈的な記号がSNS上で切り取られ、ショート動画やパロディイラストを通じて拡散した結果、暴力性の実感が希薄化したまま、ライトなネットスラングとして消費される土壌が完成したのです。