黒社会の伝統と儀礼を冷徹なリアリズムで解剖したのが、巨匠ジョニー・トー(杜琪峯)監督の傑作『エレクション(黒社会)』である。作中で描かれた「龍頭棍(ドラゴンの杖)」を巡る長老たちの密室選挙は、映画ファンに強烈な衝撃を与えた。
香港の司法記録を開くと、映画に登場した三合会の入会儀式や血の誓い、掟を破った者への凄惨な私刑は、警察が押収した組織のマニュアルと一言一句違わずに一致していた。ジョニー・トーは過剰な美化を一切排し、利権の前には義理も人情も崩壊する暴力集団の無慈悲な生態を冷徹にフィルムへ焼き付けたのだ。映画に記録された権力抗争の様式美は、そのまま香港裏社会の貴重な文化人類学的アーカイブとなっている。