盤石に見える周産期ネットワークですが、その足元は深刻な医師不足と地域格差に揺れています。厚生労働省の統計や日本産婦人科学会の報告書が警鐘を鳴らし続けている通り、産婦人科医・新生児科医の絶対数不足と地域偏在は年々深刻化しています。
なぜ、周産期医療の現場で医師不足が解消されないのか。その理由は過酷な労働環境にあります。お産は時間を選びません。夜間・休日を問わない当直勤務、いつ鳴るか分からないオンコール待機、そして一瞬の判断ミスが母児の死や重度障害につながるという極度の精神的プレッシャー。これらに加え、他診療科と比較しても医療訴訟リスクが高い現実が、若手医師の参入障壁や中堅医師のバーンアウト(燃え尽き症候群)を引き起こしています。
この危機を乗り越えるため、国と各都道府県が推し進めているのが「医療資源の集約化・重点化」です。医師が1〜2人しかいない小規模病院の産科を閉鎖・統合し、一定規模の総合周産期母子医療センターや地域周産期センターへ医師と設備を集約させる施策です。集約化によってチーム医療が実現し、医師1人あたりの当直負担軽減や当直明けの勤務免除といった働き方改革が可能となります。
しかし、集約化には「地方部における搬送時間の長期化」という痛烈な代償が伴います。全国一覧を俯瞰すると、大都市圏には車で30分圏内に複数のセンターが存在する一方、過疎地域や離島では最寄りの総合センターまで高速道路やヘリコプターを使っても1時間以上要する「周産期医療の空白地帯」が顕在化しています。ドクターヘリや新生児専用救急車(NICUカー)の配備拡大、さらにはオンライン遠隔胎児心拍モニタリングシステムの導入など、距離の壁を埋めるインフラ整備が急ピッチで進められています。