マナー指導の現場で受講者が最も衝撃を受ける事実のひとつが、「手皿は決して丁寧な仕草ではない」という点です。テレビの情報番組やグルメ番組でタレントが口元に左手を添えて食べる様子が頻繁に放送された結果、「料理の汁が垂れないように手を添えるのは上品なマナーである」という深刻な誤認が全国的に定着してしまいました。
日本礼法において手皿は「手をお皿代わりにする下品な行為」と位置付けられています。万が一食べ物が手の上に落ちた場合、掌が汚れて懐紙やおしぼりを汚すことになり、そもそも「自分の箸使いが未熟で食べ物を落とす前提である」と告白しているようなものです。和食の基本は、「落としそうなものは、ご飯茶碗や小皿を胸元まで持ち上げて受ける」ことです。
また、和食作法 茶碗の持ち上げ方 理由にも厳密な手順が存在します。やってしまいがちなのが、右手で箸を持ったまま左手で器を引っ張り上げる「諸手取り(もろてどり)」です。正しい手順は以下のステップを厳守します。
まず右手を伸ばして茶碗の上部を持ち、両手で茶碗を軽く持ち上げてから左手の手のひら(指先)に移動させ、定位置(親指と中指・薬指)に収めます。器が左手に安定して収まったことを確認してから、初めて右手で箸を取り上げます。この「器が先、箸が後」という一連の流れるような所作ができるだけで、食事風景の洗練度は飛躍的に向上します。