産卵床に付着した卵が白く濁り、ふわふわとした白い綿状の菌糸に包まれる現象は、アクアリウムの世界で一般に「水カビ病」と呼ばれる糸状菌(サプロレグニアなど)の寄生によるものです。ここで多くの飼育初心者が抱く「生きている卵にいきなりカビが生えて死んでしまった」という解釈は、生物学的には事実と異なります。
水中に常在する水カビ菌は、生命活動を営んでいる健康な細胞を生きたまま侵略する力は極めて弱く、メダカの卵がカビる最大の原因は受精していない「無精卵」の壊死にあります。受精しなかった卵は細胞分裂を行えず、生体防御機能を持たないため、水中の有機物として急速に腐敗します。腐敗して栄養の塊となった無精卵に水カビの胞子が着生し、爆発的に菌糸を伸ばして白く濁るのです。
しかし、本当の恐怖はその先に潜む構造的なリスクにあります。「健康な有精卵であっても、カビに覆われた無精卵と接触していると全滅する」という危険な落とし穴です。菌糸の網にびっしりと取り囲まれた有精卵は、呼吸に必要な酸素の取り込みを完全に遮断されて窒息死します。さらに、無精卵の腐敗によって局所的な水質悪化と高濃度の菌圧が生じることで、本来は防御力を持っていた有精卵の卵膜が破綻し、次々とカビの餌食になっていく連鎖崩壊が引き起こされます。