沈黙を保ち続けていた小田貴月氏が、初めて公の場で自らの言葉を紡いだのが、2019年に上梓された手記『高倉健、その愛。』(文藝春秋)でした。この著書を通じて、謎に包まれていた17年間の共同生活の実態が赤裸々に語られました。
本の中で明かされた高倉健さんの私生活は、映画の中の寡黙でストイックなイメージとは一味違う、人間味と繊細さに満ちたものでした。朝食のルーティン、こだわりのコーヒーの淹れ方、台本を覚える際の苦悩、そしてパートナーに対して見せるユーモラスで温かい一面など、長年生活を共にしなければ知り得ないエピソードが多数綴られています。
世間からの激しいバッシングに対する弁明本と捉える向きもありましたが、丹念に描かれた健さんの最晩年の姿は、多くの映画ファンに「確かに彼女は健さんを陰で支え、幸せな晩年を演出していたのだ」という印象を抱かせる契機にもなりました。