栗林公園が国内外から圧倒的な称賛を浴びる根底には、徹底して計算された造園美と重厚な歴史が存在します。その起源は16世紀後半、豪族・佐藤氏の築庭に遡り、その後1642年に高松藩主となった松平頼重(水戸光圀の兄)へと引き継がれ、5代藩主・頼恭の時代に至るまで実に約100余年の歳月を費やして完成を見ました。背景にそびえる紫雲山(しうんざん)を庭の一部として取り込む「借景(しゃっけい)」の手法が極限まで洗練されており、平庭部約16ヘクタール(山林部を含めると約75ヘクタール)という広大なキャンバスに、池、築山、奇岩、名松が立体絵巻のように配置されています。
著名なフランスの旅行ガイド『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン』で最高評価の「三ツ星(わざわざ旅行する価値がある)」を獲得した最大の要因は、この「一歩一景」と呼ばれる空間設計にあります。園路をわずか数歩進むだけで、木々の重なりや水面の反射、石の陰影がドラマチックに変容し、視覚的な退屈を一切与えません。自然の地形を巧みに利用しながら、人工的な作為を徹底的に自然と同化させる江戸初期の大名庭園の技法が、現代を生きる世界中の旅人の心をも揺さぶり続けています。