この現象の概念を最初に学術的枠組みへ落とし込んだのは、カナダ出身の精神分析医エリオット・ジャックスだ。彼は1965年の論文で、天才的な芸術家たちが30代後半から40代にかけて作品の傾向を大きく変えたり、深刻なスランプに陥ったりする現象に着目。「中年の危機」という言葉を提唱した。
一方、精神分析学の巨星カール・ユングは、人生を太陽の運行に例え、40歳前後を「人生の正午」と呼んだ。ユングによれば、人生の前半生は外的な適応、すなわち職業的成功や家庭の形成、社会的役割の獲得に費やされる。しかし正午を過ぎると、太陽が影を伸ばすように、それまで抑圧してきた「本来の自分」や未解決の内的課題が表面化してくるという。臨床心理学の領域でも、この時期の葛藤は単なる精神的病理ではなく、真の自己実現へと向かうための不可避な「脱皮」のプロセスだと位置づけられている。