橋梁技術の歴史において、19世紀後半から20世紀初頭にかけて欧米で試みられた「魚腹トラス(レンティキュラートラス)」。上弦材が上へ、下弦材が下へとそれぞれ弓なりに膨らみ、まるで魚の腹や凸レンズのような断面形状を描く特異な構造形式です。理論上は曲げモーメントを効率的に処理できる合理的な力学形状でありながら、部材ごとの寸法がすべて異なるため製造・加工・組み立てに莫大な手間と高度な職人技を要しました。そのため、世界的に見ても施工例が極端に少なく、アメリカやヨーロッパでも数えるほどしか残されていません。
日本国内において、道路橋としてこの魚腹トラスが現存しているのは、北九州市八幡東区の南河内橋が名実ともに国内唯一です。鉄道橋を含めても、明治期に輸入されたポーナル型と呼ばれる小規模な桁がごく一部に移築・保存されている程度で、2径間連続(スパン66メートル×2、全長132.97メートル)という本格的なスケールで堂々たる原形をとどめている事例は他に存在しません。
文化庁の文化財保護審議会関係資料でも、「我が国近代の橋梁技術史上、極めて高い学術的価値を有する」と明記されています。全国の産業遺産愛好家や構造工学の研究者が現地へ足を運ぶ理由は、単なるノスタルジーではなく、製鉄の黎明期に技術者たちが到達した「技術の極点」がそのまま息づいているからに他なりません。