ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』は、キリストが「この中にわたしを裏切る者がいる」と告げた直後の使徒たちの動揺を描いた宗教画の最高峰です。野田サトル氏はこの構図を極めて正確にトレースしながら、『ゴールデンカムイ』の登場人物たちを意図的に配役しました。
まず、中央のイエス・キリストの位置に座るのはアシㇼパです。アイヌの未来を背負い、金塊の謎を解く唯一の鍵を握る彼女は、まさにこの物語における「救世主」であり中心軸です。そしてキリストの右隣(向かって左隣)、原画で最愛の弟子使徒ヨハネが位置する場所には杉元佐一が、キリストの左隣(大ヤコブの位置)には白石由竹が寄り添っています。どんな過酷な運命にあってもアシㇼパを守り抜こうとする杉元と、利害を超えて魂の絆で結ばれていく白石の立ち位置が見事に表現されています。
そして最大の焦点となるのが、銀貨30枚でキリストを官憲に売り渡した裏切り者・イスカリオテのユダの位置です。原画においてユダは、キリストの右側(向かって左手)のグループで、身を引きながら金袋を握りしめている人物です。この「ユダ」のポジションに座っていたのが、ほかならぬキロランケでした。
扉絵が掲載された当時、キロランケはアシㇼパの父ウイルク(のっぺら坊)の旧友として旅に同行し、頼もしい兄貴分のような立ち位置を見せていました。しかし、この配置こそが、のちに網走監獄で杉元を罠に陥れ、のっぺら坊を尾形に狙撃させ、アシㇼパを樺太へと連れ去る「最大の裏切り者」としての正体を示す決定的な伏線だったのです。