カラオケで「歌いやすい」と感じる楽曲と「歌いにくい」と感じる楽曲には、感覚論ではない明確な音楽的・音声生理学的な差異が存在します。歌唱に苦手意識を持つ人が苦戦する最大の要因は、音程感の欠如そのものではなく、声帯にかかる急激な負荷と音程跳躍の多さにあります。
第一に、歌いやすい名曲の多くは総音域が1オクターブから1オクターブ半以内に収まっています。男性ボーカル曲であれば「mid1C(ド)〜mid2E(ミ)」程度、女性ボーカル曲であれば「mid1G(ソ)〜hiC(高いド)」程度の狭い音域で完結する楽曲は、裏声への急激なシフト(換声点の通過)を必要としません。喉の筋肉をリラックスさせたまま地声の自然なポジションで発声し続けられるため、ピッチが大きくブレにくい構造になっています。
第二に、リズムが平易でメロディが順次進行(隣り合う音へ階段状に動くこと)している点が挙げられます。近年のチャートを賑わす複雑なシンコペーションや急速な符割りを持つナンバーとは対照的に、4分音符や8分音符が主体で休符(息継ぎのポイント)が明確に確保されている楽曲は、肺活量に余裕が生まれ、音程バーに対する追従性が飛躍的に向上します。これが、音痴でも歌いやすい曲の理由として音楽指導者が口を揃える物理的な根拠です。