見た目の美しさと雑味のないクリアな味わいを実現するには、煮る前の丁寧な下準備が仕上がりの8割を左右します。料理研究家・やまでらくみこ氏の指南や老舗の仕込み現場でも共通して徹底されているのが、有頭海老の下処理と背わたの取り方の基本手順です。
まず行うべきは、殻の隙間から臭みの元を完全に排除する作業です。有頭海老の背中を丸め、第2関節と第3関節の隙間に竹串を深さ5ミリ程度水平に差し込みます。そのまま串をゆっくりとすくい上げると、黒い糸状の背わた(消化管)が引き出せます。途中で切れてしまった場合は、尾に近い関節からも同様に串を刺して慎重に抜き取ります。背わたを残すと、噛んだ時のジャリジャリとした不快な砂噛みや、特有の生臭さの原因になります。
続いて、ヒゲと足の処理に移ります。長いヒゲは根元からハサミで切り落とし、尾の先端にある尖った「剣先(尾尖)」と尾の端を斜めに切り揃えて内部の黒い汚水を包丁の背でしごき出します。足については、無理にすべて切り落とす必要はありません。途中で折れて見栄えを損ねている部分のみを整える程度に間引くことで、お重に詰めた際の上品な広がりを維持できます。
そして、おせち海老の色鮮やかな煮方を支える隠れたプロの技が「塩水と日本酒による洗浄」です。海老の殻表面には目に見えない雑菌やタンパク質性の汚れが付着しており、そのまま煮汁に入れるとアクとなって表面にこびりつき、濁りの原因となります。立て塩(約3%濃度の食塩水)で優しく汚れを洗い流したのち、少量の酒を振りかけて水気をペーパータオルで徹底的に拭き取ります。殻に含まれる色素「アスタキサンチン」は加熱によって赤く発色しますが、余分な汚れを取り去っておくことで、濁りのない息を呑むような深紅の艶が生まれます。