ピエールロバン症候群(Pierre Robin sequence / syndrome)は、約8,000人〜14,000人に1人の割合で出生児に発症する先天異常です。医学的には単一の疾患名というよりも、一連の形態異常がドミノ倒しのように引き起こされる病態であることから、正式には「ピエール・ロバン連鎖(シークエンス)」と呼称されます。
この病態を定義付けるのが、以下の3大特徴(三徴)です。
- 小下顎症(しょうかがくしょう):下顎(下あご)が生まれつき極めて小さく、後方に後退している状態。
- 舌根沈下(ぜっこんちんか):小さな下顎の中に舌が収まりきらず、舌の根元が喉の奥(咽頭側)へと落ち込む現象。
- 気道狭窄および口蓋裂(こうがいれつ):舌根沈下によって空気の通り道が塞がれ、重度の呼吸障害を引き起こす。また、約80〜90%の症例でU字型の広い口蓋裂(上あごの破裂)を合併する。
なぜこのような異常が発生するのか、その根本原因は胎児期の顎顔面形成プロセスにあります。妊娠7〜10週頃、胎児の口腔内では左右の口蓋突起が癒合して上あごを形成しますが、この時期に下顎の発育不全が存在すると、舌が上方に押し上げられたまま喉の奥に留まります。その結果、口蓋突起が中央で閉じるのを物理的に邪魔してしまい、特徴的なU字型の口蓋裂と気道閉塞が連鎖的に形成されるのです。
発症要因としては、特定の遺伝子変異や外力(子宮内での胎位による圧迫など)が関与する「孤発性(約50〜60%)」と、スティーラー症候群(Stickler症候群)や22q11.2欠失症候群などの基礎疾患に伴う「症候群性(約40〜50%)」に大別されます。原因の精査は、その後の全身管理や遺伝カウンセリングにおいて極めて重要な意味を持ちます。