2011年3月11日、陸前高田市を襲った大津波は海岸沿い約2キロメートルに広がっていた名勝「高田松原」を飲み込み、約7万本あった松林を一瞬にして壊滅させました。その中で、樹高約27.5メートル、幹回り約3.2メートル、推定樹齢約173年のアカマツとクロマツの交雑種(アイグロマツ)の1本だけが、直立したままの姿で残りました。
なぜこの松だけが激流に耐えられたのか。東北大学大学院などの研究チームによる津波シミュレーションや現地の流動解析により、主に3つの科学的要因が重なった結果であることが判明しています。
最大の要因は、一本松のすぐ背後(内陸側)に位置していた鉄筋コンクリート造3階建ての建造物「陸前高田ユースホステル」の存在です。襲来した津波は同施設に激突して左右へ分流し、一本松の周囲に局所的な波の淀み(減勢ゾーン)を生み出しました。さらに、海へ引き返す猛烈な「引き波」に対しても、建物が防壁の役割を果たして松の根元への過度な洗掘を防いだことが確認されています。
これに加えて、一本松が自生していた場所の地盤が砂丘列の安定した層に位置していたこと、樹齢170年を超える太い幹と深く張り巡らされた根系が強固であったことが重なり、奇跡的な直立を可能にしました。単なる偶然ではなく、人工構造物と自然条件が極限状態で噛み合った結果といえます。