昭和26年(1951年)、戦後日本の国際観光推進という国策的使命を帯びて産声を上げた志摩観光ホテル。建築界の巨匠・村野藤吾氏が手掛けた初期の建築思想は、英虞湾の豊かな自然美と見事に調和し、開業当初から日本屈指の文化サロンとしての性格を帯びていました。
この宿を語る上で欠かせないのが、文豪や芸術家たちとの深い結びつきです。作家・山崎豊子氏が名作『華麗なる一族』を執筆する際、定宿として逗留したエピソードはあまりに有名です。作品冒頭で描かれる「英虞湾の夕陽」の描写は、まさにこのホテルのテラスや客室から望む景色そのものであり、現在も文学ファンが聖地として足を運ぶ要因となっています。
そして2016年5月、ホテルは再び世界の中心舞台となりました。G7伊勢志摩サミットの主会場に選定されたホテル内には、首脳たちが円卓を囲んだ伊勢志摩サミットの部屋が保存・公開されており、当時の記念写真パネルや首脳陣が使用した椅子、サイン入りの芳名録が当時の緊張感と歓談の空気を伝えています。単なる宿泊施設にとどまらず、日本の近現代史の息吹を五感で追体験できる稀有な文化遺産であることが、時代を超えて選ばれ続ける本質的な理由です。