三半規管とは、側頭骨の最深部である「内耳」の前庭につながる、半円形の管が3つ連なった器官の総称です。英語では「Semicircular canals」と呼ばれ、ヒトを含む大半の脊索動物が共通して備えている生体構造です。日本国内の文献を紐解くと、作家の里見弴が1920年代に発表した小説『潮風』において、「なかでも三半規管といふのが大切なんで、そいつが、中心をとる、といふやうな神経に関係があるらしい」と記しており、大正時代から身体のバランスを保つ中枢として広く知られていた経緯が確認できます。
解剖学的に見ると、三半規管は「前半規管」「後半規管」「外側(水平)半規管」の3本で構成されています。これらは3次元空間のX軸・Y軸・Z軸のように互いに約90度の角度で直交しており、頭部があらゆる方向に回転した際の「角加速度」を漏れなくキャッチする構造です。管の内部は内リンパ液で満たされており、根元にある膨らんだ部分(膨大部)には有毛細胞を抱える「クプラ」と呼ばれるゼラチン状の構造物が存在します。
頭部が回転すると、慣性の法則によって内リンパ液に物理的な流動が発生します。この液体の流れがクプラを押し傾け、有毛細胞の感覚毛がたわむことで物理的な刺激が電気信号へと変換されます。この信号が前庭神経を経由して脳幹や小脳へ送られることで、脳は「今、頭がどの方向へどれだけの速さで回転したか」を正確に認識します。さらに、頭部が動いても視界の映像がブレないように眼球を逆方向へ反射的に動かす「前庭動眼反射(VOR)」を駆動させる基幹としても、三半規管は不可欠な役割を担っています。