大阪の不動産市場やSNSの防災コミュニティにおいて、長年にわたり語り継がれている言説があります。「上町台地は古代から沈まなかった聖地であり、地盤が強固だから上町台地に住めば地震でも安心だ」という主張です。しかし、地震工学と危機管理の最前線を取材する記者として断言しますが、この言説には重大な盲点が存在します。
確かに、上町台地は更新世の段丘堆積物で構成されており、沖積低地やベイエリアに比べれば地盤沈下や液状化のリスクは極めて低く抑えられます。津波や高潮に対する標高アドバンテージも明確です。しかし、根本的な事実を忘れてはなりません。上町断層そのものが、まさにその上町台地の直下から西縁を震源域として動くのです。
断層の真上に位置するエリアが受ける打撃は、震源から離れた場所で感じる「横揺れ」とは根本的に異なります。阪神・淡路大震災の際に野島断層直上で確認されたような、下から突き上げられる「キラーパルス(極短周期・大振幅の地震動)」がダイレクトに構造物を襲います。地盤が固いからといって、断層破壊の震源直上における激震から免れるわけではありません。現場を歩くと、台地の縁には急傾斜地が密集し、古い石垣や擁壁の上に立つ住宅も目立ちます。直下型地震特有の垂直加速度が加わった際、地盤の固さとは無関係に、建物基礎の損壊や擁壁崩壊が発生する危険性は極めて高いのです。
ネット上の「台地神話」に惑わされ、耐震性能の確認や家具の固定を怠る心理こそが、直下型地震における最大の致命傷になり得ます。