ひろしの評価を決定づけた金字塔といえば、やはり『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』だろう。映画のクライマックス、過去の思い出に囚われていたひろしが、己の靴下の臭いを嗅ぐことで現実を取り戻す回想シーンは、日本アニメ史に残る屈指の名場面として語り継がれている。
当時の制作スタッフの証言によれば、あの回想シーンにはセリフがほとんど存在しない。少年の日の自転車の記憶、上京して就職した日の孤独、妻・みさえとの出会い、しんのすけが生まれた日の涙。セリフを極限まで削ぎ落としたからこそ、その後に放たれる一言が観客の心に深く突き刺さるのだ。