一般に「解剖」と一括りにされがちですが、日本の法制度における死因究明は大きく性質の異なるルートに分かれています。病院で治療中に亡くなった場合の病理解剖とは異なり、変死体や事故死、突然死などの異状死体を扱うのが法医解剖です。まず押さえるべきは、司法解剖と行政解剖の違いです。
医師法第21条により、医師は死体を検案して異状があると認めたときは24時間以内に所轄警察署に届け出る義務を負っています。警察に届け出られた遺体は、まず警察官や検視官による「検視・見分」を受けます。ここで事件性(犯罪の疑い)が認められると、刑事訴訟法第168条等に基づき裁判官の令状を得て司法解剖が執行されます。この解剖は遺族の承諾がなくても強制的に実施され、犯人の特定や裁判での証拠能力確保が主目的となります。
一方、事件性はないと判断されたものの、死因が不明な異状死体に対して行われるのが行政解剖です。公衆衛生の向上や感染症・中毒の蔓延防止、遺族への正確な死因告知を目的としています。しかし、行政解剖を公費で常時行える監察医制度の対象地域は、現在でも東京都23区、大阪市、名古屋市、神戸市といったごく一部の大都市圏に限定されています。
監察医制度のない大部分の地方自治体では、遺族の承諾を得て行う「承諾解剖」か、2013年に施行された「死因・身元調査法」に基づく新法解剖(警察署長等の権限で実施される解剖)に依存せざるを得ません。地域によって解剖を受けられるかどうかの格差が生じており、死因究明制度の構造的な歪みとして長年議論が続いています。