稲川怪談の最大の魅力は、目を閉じるとその場の風景や気温、湿り気までもが頭の中に鮮明に浮かび上がってくる点にあります。この卓越した表現力の根底には、稲川氏が持つ工業デザイナーとしての経歴が深く関係しています。
桑沢デザイン研究所を卒業後、工業デザイナーとして数々のヒット商品を手掛け、グッドデザイン賞を受賞した実績を持つ稲川氏。デザイナーならではの空間把握能力と造形への深い理解が、怪談の語りにも遺憾なく発揮されています。
「部屋の右隅にある箪笥の影」「街灯に照らされたアスファルトの濡れ具合」といった空間の位置関係を正確にリスナーへ共有し、そこに「ザザッ」「スウッ」といった計算されたオノマトペを重ねることで、聴き手の脳内に立体的な恐怖の三次元空間を構築します。理路整然とした構成美があるからこそ、不条理な怪異が際立つのです。