インターネット上ではしばしば「天才数学者 IQ」といった検索がなされ、「IQ180の超人が数学者になる」といった神話が語られがちです。しかし、実際の数学界において、IQテストで測定されるようなパズル処理速度や作業記憶の数値は、決定的な要素とは見なされていません。
フィールズ賞受賞者であるテレンス・タオ教授をはじめとする多くの第一線研究者たちが指摘しているのは、「IQの高さよりも、何年もの間ひとつの難問の前で立ち尽くし、間違え続けることに耐えうる精神的な粘り強さ(Frustration Tolerance)こそが重要である」という事実です。
数学の研究とは、99.9%の時間を「うまくいかない仮説の検証」に費やす作業です。数か月かけて書き進めた数十ページの計算が一つの符号のミスや前提の崩壊で水泡に帰すことは日常茶飯事です。ネット上で散見される「ひらめき一発で世界を変える天才」という描写は極端にドラマチック化された幻想であり、実際の現場を支えているのは、緻密な論理の石垣を何年もかけて積み上げる愚直なまでの忍耐力です。