インターネット上では、水野晴郎氏について「タレント上がりの解説者」「『シベリア超特急』で迷走した人物」といった断片的なイメージで語られるケースが散見されます。しかし、これらの見方は実態の半分も捉えていません。
第一の誤解は、映画に関する専門性への過小評価です。水野氏は単なるタレントではなく、警察大学校で教鞭を執った警察研究家であり、映画配給の最前線でハリウッドメジャーと渡り合った本格派の映画人でした。配給会社時代の宣伝コピーの鋭さや、興行を成功に導くマーケティング能力は当時の業界内でも群を抜いていました。
第二の誤解は、監督・主演を務めた映画『シベリア超特急』(通称・シベ超)に関する評価です。1996年に公開された第1作は、密室の列車内を舞台にしたサスペンスで、当初はカルト映画・B級映画として面白がられる側面が目立ちました。しかし、自主制作に近い形で私財を投じてまで映画作りに挑んだ背景には、「映画を批評するだけでなく、自らの手で観客を喜ばせるエンターテインメントを創り上げたい」という純粋な創作欲求がありました。
『シベリア超特急』シリーズは熱狂的なファンコミュニティを生み出し、舞台化やシリーズ化を重ねて長期にわたり愛されました。作り手としての痛烈な苦労を身をもって知っていたからこそ、水野氏の解説には他の評論家にはない「映画現場への底知れぬリスペクト」が宿っていたのです。