放送現場における表現の基準を研究するNHK放送文化研究所の調査資料や世論調査でも、この言葉の東西差は明確に記録されている。アナウンス基準としての標準語は「蚊に刺される」であり、ニュース番組や教育コンテンツで「噛まれる」「食われる」が使われることは原則としてない。しかし、人々の私的な会話における使用実態は、放送コードとは異なる生命力を見せる。
国立国語研究所が蓄積してきた全国方言調査のデータを見ても、若年層における共通語化の波は確実に押し寄せている。とりわけ都市部では「刺される」を使う若者が増加傾向にあるのは事実だ。それでもなお、関西圏を中心とする西日本では、家庭内での自然な言語習得を通じて「噛まれる」が世代を超えて継承され続けている。テレビやネットメディアの影響力を受けてもなお揺らがない表現が、そこにはある。