日本国内の消防庁統計によると、建物内での窒息事故による救急搬送人員は年間数千件規模に上り、その大半が高齢者や幼小児の食事中に発生しています。窒息状態に陥ると、声が出せなくなる「チョークサイン(親指と人差し指で喉を握る仕草)」が現れ、チアノーゼ(皮膚や唇の変色)が急速に進行します。
日本救急医療財団や日本蘇生協議会(JRC)が策定する気道異物除去ガイドラインにおいて、成人に対する意識がある状態での応急手技として位置づけられているのが、腹部突き上げ法(別名:ハイムリック法)と背部叩打法です。ハイムリック法の原理は、横隔膜を急激に下から上へと押し上げることで肺内の空気を圧縮し、その風圧(肺内残気圧)によって喉に引っかかった異物を外へと弾き飛ばす構造になっています。
気道閉塞が発生してから脳の不可逆的な損傷が始まるまでの時間は、一般に3〜5分程度と極めて短時間です。救急隊の到着を待つだけでは間に合わないケースが多く、周囲にいるバイスタンダー(発見者・居合わせた人)による即座の判断と処置が生死を分ける決定打となります。