なぜI understand失礼な理由がこれほど議論されるのか。その根底には、英語の「understand」という動詞が宿す語用論的な重心の違いが存在します。「understand」の本質は、提示されたロジックや背景事情を「頭の中で把握・咀嚼した」という認識状態を表す点にあります。そのため、上司からの業務命令や取引先からの作業依頼に対して単に「I understand.」とだけ返すと、ネイティブスピーカーの耳には「言っている理屈は把握しました(しかし引き受けるかどうか、どう動くかは別問題です)」という冷ややかな響きを残すリスクを孕むのです。
言語学者ブラウン&レビンソンの「ポライトネス理論(Politeness Theory)」に照らし合わせると、ビジネスにおける「わかりました」は相手の要請を受け入れ、相手の立場を尊重する積極的配慮(ポジティブ・ポライトネス)を伴う必要があります。しかし「I understand.」は、時として上級者が部下を宥める際(「あなたの言い分は分かります」)や、クレームに対して距離を置く際のニュアンスを帯びてしまいます。結果として、受け手側に「まるでこちらを値踏みしているような上から目線」という違和感を与える要因になります。
特にハイコンテクストな日本語では「わかりました」の一言に「了承・引き受け・敬意」が自動的に内包されますが、ローコンテクストな英語圏では「了解したこと」と「喜んでコミットすること」を明確に言語化して分節しなければ、誠意ある合意形成とは見なされません。