2014年2月20日、ロシア・ソチのアイスバーグ・スケーティング・パレス。前日のSPでトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)の転倒などミスが重なり、55.51点の16位とまさかの出遅れを喫した浅田真央は、失意のどん底にいました。日本中が息を呑み、本人すら「もう日本に帰れないのではないか」と自著や後の手記で述懐したほどの精神的プレッシャーの中で迎えたのが、フリーの演技でした。
セルゲイ・ラフマニノフ作曲『ピアノ協奏曲第2番』の重厚なピアノの和音が鳴り響くなか、彼女は冒頭のトリプルアクセルを完璧に着氷。続く3回転フリップ+3回転ループの高難度コンビネーション、3回転ルッツと、当時の採点規則における女子の限界構成「全6種類・計8回の3回転ジャンプ」を次々とクリーンに成功させていきました。
技術的な完璧さもさることながら、観衆を圧倒したのはその鬼気迫る情熱と表現力です。ステップシークエンスでは氷を削るエッジワークとともに感情がほとばしり、演技終了の瞬間に見せた天を仰ぐ涙と万感の笑顔は、スポーツの枠を超えたドラマとして世界中のテレビカメラを通じて生中継されました。報道各社の取材データによれば、この瞬間の瞬間最高視聴率は深夜帯にもかかわらず20%超(関東地区)を記録し、国内外のSNSサーバーが一時的に過負荷となるほどの社会的インパクトを与えました。