オールマイトが作中で「平和の象徴」と呼ばれ、国民から絶対的な信奉を集めた理由はどこにあるのでしょうか。臨床心理学や社会学のフレームワークを適用すると、その構造が極めて論理的に設計されていることが分かります。
第1の要因は、集団心理における「心理的安全性(Psychological Safety)」の絶対的担保です。超常能力「個性」の出現によって社会秩序が崩壊寸前となった暗黒期において、人々は常に理不尽な暴力の恐怖に晒されていました。オールマイトは自らが圧倒的な力で犯罪発生率を劇的に引き下げただけでなく、「常に笑って人を救う」というスタンスを徹底しました。「助けを求める人々に恐怖や不安を抱かせない」ための笑顔は、傷つき疲弊した市民のトラウマを緩和する強力な心理的防波堤となったのです。
しかし、このカリスマ性は同時に日本社会に深刻な副作用をもたらしました。社会学者のマックス・ウェーバーが提唱した「カリスマ的支配」が極限に達した結果、市民や他のプロヒーローたちは「オールマイトさえいれば全て解決する」という過度な依存状態に陥ってしまったのです。彼が一人で重責を背負い続ける構造は、彼自身の肉体を蝕むとともに、社会全体の自立性を奪うという二面性を抱えていました。