麻婆豆腐の誕生は、清朝同治元年にあたる1862年の中国・四川省成都市にまで遡ります。成都北郊の万福橋のたもとにあった小さな大衆食堂「陳興盛飯舗」を切り盛りしていた店主の妻、陳劉氏が考案した料理がすべての始まりです。
当時、万福橋を行き交っていた油運びの工夫(人夫)たちは、持ち込んだ菜種油や安価な豆腐、牛挽肉、唐辛子を使って手早く精のつく料理を作ってほしいと頼み込みました。陳劉氏がそれらの限られた食材を強火で炒め合わせ、豪快に花椒を振りかけて供したところ、その類まれなる旨辛さが労働者の間で爆発的な評判を呼びました。彼女の顔にあばた(麻子)があったことから、親愛の情を込めて「陳麻婆」と呼ばれるようになり、料理そのものが「陳麻婆豆腐」と命名されたのです。
現在、成都の「本場四川省成都 陳麻婆豆腐本店」は中国政府から伝統ある老舗ブランドとして「中華老字号」の認定を受け、世界中から観光客が訪れる食の聖地となっています。日本国内で展開されている「陳麻婆豆腐」は、この成都本店から正式に門外不出の看板とレシピの継承を許された正統後継店であり、昭和期に日本で大衆化したマイルドな麻婆豆腐とは一線を画す「原点の味」を今に伝えています。