原作者である野坂昭如が自伝的小説として発表し、新潮社から刊行された本作。その背後には、彼自身が少年時代に体験した極限状態の飢餓と、自責の念に苛まれ続けた血の滲むような原体験が存在する。昭和20年(1945年)の神戸大空襲によって壊滅的な打撃を受けた兵庫県神戸市。市街地は一瞬にして焦土と化し、無数の市民が命を落とした。命からがら生き延びた野坂少年は、幼い妹を連れて焼け野原を彷徨い、自らも飢えと背中合わせの絶望を味わった。
作品の起点となる三宮駅は、まさにそうした孤児たちが雨露をしのぎ、力尽きて倒れていった「生の境界線」であった。当時、駅の構内や地下道には、身寄りを無くした子どもたちが身を寄せ合っていたが、行き交う人々は彼らに目を向ける余裕すら失っていた。駅の清掃員が冷淡に少年の遺体を運び去り、持っていたドロップ缶を草むらに投げ捨てる――あの冒頭の衝撃的なシーンは、野坂自身が目撃し、そして自らの過酷な記憶を投影した「歴史の真実」そのものだったのである。