1998年4月、株式会社湯快爽快が展開する温浴ブランドの記念すべき第1号店(総本店)として誕生した「野天湯元 湯快爽快 ちがさき」。JR茅ヶ崎駅北口から無料送迎バスも運行され、地元住民の日常的な湯治場としてだけでなく、湘南エリアを訪れるサーファーや観光客の癒やし拠点として確固たる地位を築いていました。
しかし、2022年4月17日をもって約24年間に及ぶ歴史に終止符が打たれました。公式発表および業界関係者への取材から浮き彫りになったのは、単一の赤字問題ではなく、複数の構造的要因が重層的に絡み合った結果です。
最大の決定打となったのは、土地の定期借地契約の満了です。平成初期に相次いで開業した郊外型スーパー銭湯の多くは、20年から25年の事業用借地権を設定して建設されています。同館もちょうど満24年という契約更新の節目を迎えていました。
さらに現場を圧迫したのが、設備の物理的な寿命でした。地下1,500メートルから汲み上げる「湘南茅ヶ崎温泉」は、全国トップクラスの成分濃度を誇る塩化物強塩温泉であり、その強力な泉質ゆえに配管や熱交換器の腐食スピードが極めて速いという宿命を抱えていました。ボイラー機器の刷新、防水層の再施工、耐震補強などを含めると数億円規模の改修投資が不可欠な状況に達していたのです。
折り悪く、2020年以降の感染症流行による来館者数の制限と、世界的な原油・液化天然ガス(LNG)価格高騰に伴う光熱費の激増が直撃しました。温浴ビジネスにおいて燃料費と電気代は売上原価の20%以上を占める生命線です。契約満了を迎えるタイミングで莫大な再投資に踏み切るか、それとも名誉ある撤退を選ぶか——。運営母体である株式会社湯快爽快および経営陣が下した決断が、惜しまれつつの完全閉店でした。