新宝島Mvはなぜドリフなのか?昭和オマージュに宿る山口一郎の覚悟

新宝島Mvはなぜドリフなのか?昭和オマージュに宿る山口一郎の覚悟

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ロックシーンの最前線で高い芸術性を評価されてきたサカナクションが、なぜコミカルとも受け取られかねない昭和バラエティの再現に踏み切ったのか。その背景には、フロントマン・山口一郎が直面していた壮絶なクリエイティブの葛藤がありました。

事の発端は、映画『バクマン。』の主題歌オファーでした。週刊少年ジャンプの頂点を目指して漫画制作に青春を捧げる2人の少年の物語と向き合った山口一郎は、自身も「大衆に届く圧倒的な王道ポップスを作らなければならない」という強烈な重圧に苛まれます。当時のメディアインタビューや自著、ラジオ番組『サカナクション・カローラ / SCHOOL OF LOCK!』の山口一郎MV解説において本人が吐露したところによると、歌詞の制作にはおよそ6ヶ月もの歳月を費やし、心身ともに極限まで追い詰められていたと証言しています。

「丁寧、丁寧、丁寧に描くよ」というあまりにも有名なフレーズは、机にしがみついてペンを走らせる漫画家の姿であり、同時に歌詞が一行も書けずに苦悶していた山口自身の生々しい叫びでもありました。この苦闘の果てに生み出された楽曲に対し、映像のディレクションを担当した映像作家・田中裕介監督演出が提示したコンセプトこそが「昭和のテレビショー」でした。

山口一郎は映像の打ち合わせにおいて、大衆に向けて音楽を届けることの究極形として「ザ・ドリフターズ」の存在を強く意識したと語っています。ここに、サカナクションが抱くドリフターズリスペクト理由の核心があります。多くの人々が「お笑いタレント」として記憶しているザ・ドリフターズは、もともと優れたジャズ・ロカビリーの腕前を持つ超一流のミュージシャン集団でした。ビートルズの日本武道館来日公演で前座を務めたほどの高い演奏技術を持ちながら、彼らはお茶の間を笑顔にするためにコントという大衆芸能に命を削ったのです。

「自分たちがどれほどマニアックで洗練された音楽理論を持っていようと、茶の間全員を振り向かせなければポップミュージックの勝利とは言えない」。サカナクションバクマン主題歌という巨大な看板を背負った山口一郎は、自らのプライドやサブカルチャー的気取りをすべて脱ぎ捨て、ドリフターズが昭和の日本で見せつけた「大衆を熱狂させるプロフェッショナリズム」に自らの覚悟を重ね合わせたのです。

伊藤 翔太
著者

伊藤 翔太

マネー知識やキャリア形成に役立つノウハウを、初心者にも分かりやすく解説するのが得意です。