フルモデルチェンジ以降も多くのユーザーから「なぜ付けなかったのか」と惜しまれる電動パーキングブレーキ。開発主査への取材やサプライチェーン関係者の証言を総合すると、単なるコストカットにとどまらない、明確な商品設計思想が浮かび上がってきます。
第1の理由は、エントリー価格を200万円前後に抑え込む徹底した価格戦略です。シエンタが採用するTNGAプラットフォーム(GA-B)のリヤ周りは、低床化と低コストを両立するトーションビーム式サスペンションとドラムブレーキの組み合わせを基本としています。電動パーキングブレーキを導入する場合、リヤブレーキをディスク化するか、高価なドラム内蔵型EPBアクチュエーターを新開発する必要があり、車両原価が跳ね上がります。日常の生活車として子育て世代の家計に寄り添う価格設定を死守するため、メカニカルな足踏み式が選ばれました。
第2の理由は、主要ターゲット層である日常使いユーザーの操作慣習への配慮です。開発陣が実施した市場調査によると、軽自動車や従来型コンパクトカーから乗り換えるシニア層や子育て世代の一部には、「足踏み式やレバー式のほうが作動状態を直感的に把握できて安心」という根強い声がありました。電子制御への心理的ハードルを排除する狙いも背景に存在します。
第3の理由は、ヤリスやアクアなどGA-Bプラットフォーム共通の制約です。基本骨格を共有する兄弟車群において、コストと重量増を避ける共通設計が優先された結果、シエンタ単独での大幅な足回り再設計が見送られた経緯があります。