インターネット上の相談窓口や取材現場で頻繁に耳にするのが、「老健に入所させたが、わずか3ヶ月で『次の行き先を決めてください』と迫られた」「特養だと思って安心していたら全く違っていた」という悲痛な声です。なぜこのような認識の乖離が生じるのでしょうか。
その背景には、老健が制度上背負っている「在宅復帰 3ヶ月ルール」が存在します。老健では、入所から3ヶ月ごとに「退所判定委員会」が開催され、医師、看護師、理学療法士、支援相談員らが本人の身体状況や家庭環境を審査します。症状が安定しリハビリの成果が出ていると判断されれば、「在宅復帰可能」として退所が促される仕組みです。
さらに施設側の経営インセンティブも絡んでいます。老健は「超強化型」「在宅強化型」「加算型」「基本型」「その他」の5類型に分類されており、最上位の超強化型に指定されると高い介護報酬を獲得できます。この指定要件には「在宅復帰・在宅療養支援機能」の厳しい数値基準(直近6ヶ月間で退所した利用者のうち、在宅へ復職した割合が50%超など)が課されています。施設側にとっても、利用者を長期滞留させることは経営的なペナルティに直結するため、定期的な退所圧力をかけざるを得ない構造が存在します。
現場の実態手記や取材では、次のようなトラブルが散見されます。
- 「病院のソーシャルワーカーに勧められるがまま老健に入れたが、自宅介護できる状態ではないのに引き取りを要請され、家族内で押し付け合いになり家庭が崩壊寸前になった」
- 「老健の退所理由として『状態が改善したため』と説明されたが、認知症の症状は進んでおり、到底ワンオペ介護では耐えられない」
- 「老健を退去させられた後、有料老人ホームへの入居を勧められたが、月額25万円以上の費用が払えず路頭に迷いかけた」
「老健=安価でずっと預かってくれる施設」という誤解を抱いたまま契約を交わしてしまうことこそが、後悔の最大の火種となっています。