店舗の暖簾をくぐると目にする吹上庵メニュー一覧は、単品からボリューム満点の御膳まで多岐にわたる。田舎風の太麺と喉越しの良い細麺を選べる「板そば」や季節限定品も魅力的だが、訪れる利用客の視線を釘付けにする絶対的なツートップが存在する。それが「峠なべ」と「黒豚カツ丼」だ。
冬場のみならず真夏の冷房が効いた店内でも飛ぶように売れる「峠なべ」は、鉄鍋でぐつぐつと煮えたぎった状態で運ばれてくる。特注の太麺うどんや蕎麦の上に、海老天、揚げ餅、椎茸、半熟卵、鶏肉、かまぼこが豪快に盛り付けられ、煮崩れしない絶妙な火入れで提供される。吹上庵峠なべ評判を支えているのは、熱々の鉄鍋の中で具材の旨味がだしに溶け出し、最後の一口までスープの表情が変化し続ける重層的な味わいにある。
一方、男性客や若い世代から絶大な支持を集めるのが吹上庵黒豚カツ丼である。鹿児島県産黒豚のロース肉をサクサクに揚げ、吹上庵秘伝の甘辛いかえしとだしでさっと煮て卵でとじる。口に入れた瞬間に広がる黒豚特有の上品な脂の甘みと、少し濃いめの丼つゆが白米に染み渡り、箸を止めることを許さない。小うどんや小そばがセットになった定食は、確かな満腹感と幸福感をもたらしてくれる。