大阪の老舗蕎麦店「瓢亭」を語る上で欠かせないのが、その看板料理である「夕霧そば」の由来です。この蕎麦は、江戸時代の元禄期に大阪・新町でその名を轟かせた伝説の名妓「夕霧太夫」を偲んで創案されました。
夕霧太夫は、近松門左衛門の代表作『廓文章(くるわぶんしょう)』のヒロインとしても不朽の名を残す実在の人物です。太夫の命日である1月6日に行われる法要「夕霧忌」に際し、太夫の艶やかな美しさと気品を表現するために、京都の老舗などで修業を積んだ瓢亭の初代が試行錯誤の末に生み出したのが、白く透き通るような更科粉に香り高い柚子を打ち込んだ「柚子切りそば」でした。
単なる飲食店の一メニューにとどまらず、文楽や歌舞伎など上方文化の薫りを現代の食卓へと継承する文化遺産のような重みを持つ点こそ、瓢亭が歴史好きや文化人からも格別の敬意を払われる根源的な理由です。