5月に入ると、白く太っていた幼虫の体に明らかな変化が現れます。これが幼虫期の終焉と、神秘的な蛹化(ようか)へのカウントダウンです。カブトムシ幼虫蛹化のサインと前蛹期間を正確に見極めることは、成虫の羽化成功率を100%に近づけるための絶対条件です。
初期のサインとして、幼虫の体色が乳白色から「深いクリーム色〜薄黄色」へと変化し、表皮に細かいシワが寄ってきます。その後、マット内を落ち着きなく這い回る「ワンダリング行動」を経て、幼虫はケースの底面や深部に自分の体液とフンを塗り固め、楕円形の空洞である「蛹室(ようしつ)」を作り上げます。
蛹室を完成させた幼虫は、体を折り曲げて完全に動きを止めます。この状態を「前蛹(ぜんよう)」と呼び、期間は約1週間〜10日間に及びます。外見上は死んでいるようにも見えますが、内部では幼虫の組織が一度ドロドロに溶け、成虫・蛹の器官へと再構成される最もデリケートな局面です。
この前蛹期から蛹の時期における最大の厳禁アクションは「ケースに振動を与えること」と「土を掘り返すこと」です。前蛹期の幼虫は自力で土を掘り直す筋力を持たないため、ケースを落下させたり、観察のために蛹室を暴いて崩してしまうと、自力で脱皮できずに窒息死するか、翅がクシャクシャに縮んだ「羽化不全」となって命を落とします。5月中旬を過ぎたら、ケースには一切触れず、薄暗く温度変化の少ない場所で静かに見守るのが鉄則です。万が一蛹室が壊れた場合は、園芸用の吸水スポンジ(オアシス)をスプーンでくり抜いた「人工蛹室」へ速やかに避難させる緊急措置が必要となります。