大型生放送の直後、SNS上で必ず巻き起こるのがFNS歌謡祭 生歌 口パクの真相をめぐる激しい議論です。「今のは本当に生歌なのか」「被せ(プリレコーディング音源の上に生の歌声を重ねる手法)ではないか」といった疑問は、視聴者の間で絶えず飛び交っています。しかし、現場の音響設計を精査すると、ネット上の単純な二元論とはまったく異なる実態が浮かび上がってきます。
大宴会場である飛天の間は、もともと音楽コンサート専用に設計されたホールではありません。天井が高く、壁面の反射率が一般的なスタジオと大きく異なるため、生オーケストラの爆音とボーカルマイクの音声をリアルタイムでミキシングする作業は、日本の音響技術における最高難度のオペレーションと評されています。制作関係者への取材によると、番組の基本方針は徹頭徹尾「生演奏・生歌唱」を掲げています。しかし、激しいダンスを伴うグループの場合、マイクが拾う激しい呼吸音やフロアノイズを制御するため、トラック(オケ音源)の音圧バランスを楽曲のパートごとにミリ単位で調整しています。
このハイブリッドな音響処理が、視聴環境(テレビの内蔵スピーカー、ヘッドホン、スマートフォン等)によって異なる聴こえ方を生み出し、「口パクに見えるほどの安定感」や「声の輪郭の違和感」として誤解される要因となっています。現場では、不測の音響トラブルすらも生放送のドラマとして受け入れ、生のバイブスを電波に乗せるための壮絶な技術的格闘が繰り広げられているのが現実です。