日本での芸能活動から身を引いていた後藤久美子が、本格的に銀幕への帰還を果たしたのが、2019年公開の映画『男はつらいよ お帰り 寅さん』でした。かつてシリーズ第42作から第45作、第48作で満男(吉岡秀隆)の初恋の相手・及川泉役を演じた彼女に対し、山田洋次監督が自ら直筆の手紙を送り、「あなたがスクリーンに戻ってきてくれなければ、この映画は成立しない」と熱烈に出演を依頼したエピソードは有名です。
長期間のブランクを感じさせない堂々とした演技と、成熟した大人の女性としての佇まいは、オールドファンのみならず若い世代の観客にも強いインパクトを与えました。さらにその後、テレビ朝日の新春ドラマスペシャル(松本清張原作『顔』)での主演など、テレビドラマへの本格復帰も実現。30年ぶりのドラマ主演でありながら、現場スタッフを圧倒するオーラと緻密な役作りを披露しました。
現場の制作関係者からは、「セリフの暗記や段取りの確認はもちろん、現場の照明やカメラワークに対する理解度が非常に高い。長年現場を離れていたとは思えないプロフェッショナリズムを持っていた」という声が上がっています。決して生活のための安易な仕事選びではなく、「自分が心から共鳴し、観客に届ける価値がある」と確信したプロジェクトにのみ参加するという、極めて贅沢で誠実な女優活動のスタンスが浮き彫りになっています。